この記事の内容
2026年8月27日、ものづくり創造拠点SENTANで、豊田市の新規事業創出プログラム「SPARK」基礎セミナー③を開催しました。
テーマは、「仮説検証① 顧客ヒアリング」。講師に株式会社アルファドライブ 企業変革事業部 デリバリーディベロップメントグループ ゼネラルマネジャーの白杉大を迎え、顧客と課題の仮説を「聞いて確かめる」ための考え方と質問のつくり方を、講義、AIを使った質問設計、ロールプレイを重ねながら学びました。

開催概要
- 開催日
- 2026年8月27日(木)
- 会場
- ものづくり創造拠点SENTAN
- テーマ
- 仮説検証① 顧客ヒアリング
- 講師
- 白杉 大(株式会社アルファドライブ 企業変革事業部 デリバリーディベロップメントグループ ゼネラルマネジャー)
会いに行けない理由は、五つに整理できる
講義は、講師自身の失敗談から始まりました。リクルートで新規事業に取り組んだ当時、顧客に「何か困っていませんか」と聞いて回り、良い答えを得られなかった経験です。その後、大企業の事業開発を数多く支援する中で、顧客に会いに行けないチームには共通の理由があることが見えてきたといいます。
- それが大事だと知らない。 アイデアを出し、事業計画を書き、市場を分析する。その流れの中に、顧客に会う工程が入っていない。
- 何を聞けばいいかわからない。
- やったことがなく、怖い。 研究職やバックオフィス出身の方に多い。ただし事業をリードするなら、社内で一番顧客に詳しい人にならざるを得ない。
- 協業先に任せるつもり。 技術を出す側であっても、同じ解像度で顧客を見ていなければ、進める・やめるの判断ができない。
- 顧客が遠い。 物理的な距離だけでなく、「その人がどこにいるのか特定できない」も同じ問題。ヒアリングの先にある検証や販売でも、コストが高止まりし続ける。
1と2は、今日で解消できる。3は覚悟を決めるしかない。4はやめる。5は顧客を変えるか、覚悟を持って取り組む。予定表が企画会議で埋まっていて顧客訪問がないなら、それは危険なサインだ、という指摘でした。
「あったら買いますか」に、顧客は善意で嘘をつく
会いに行けたとして、何を聞くか。ここでまず示されたのが、ヒアリングに臨む人が覚えておくべき前提でした。
「こういうものがあったら嬉しいですか」「あったら買いますか」。一見、ニーズを聞いているように見えるこの質問に、顧客は嘘をつきます。悪意からではありません。目を輝かせて事業の話をする相手を前にすれば、応援する気持ちから「いいね」と言ってしまう。今すぐお金を出せと言われているわけでもない。逆の立場なら、自分もそう答えるはずです。
「いいと思います」の前と後ろには、言葉が隠れている。「世の中にあっても」いいと思います、「私は買わないけれど」。
講師が紹介した調査では、事前に「買う」と答えた人を追跡したところ、数百円の飲料でさえ半数以上が実際には買わなかったといいます。「購入意向が高い人が8割います」という円グラフを社内会議に出し、作って売りに行き、誰も買わない。この失敗は、顧客が嘘をついていることを知らないまま聞き方を誤ったところから始まります。
意見ではなく、過去の行動を聞く
では、どうするか。今回の講義で最も強く示されたのが、この一点でした。
言葉は嘘をつけます。しかし、過去にとった行動は嘘をつけません。 「これが欲しいですか」という意思や意見を聞くのではなく、「最近、最後に〇〇したのはいつですか」と聞く。それだけで、答えの質が変わります。
会場で実演がありました。「健康は大事だと思いますか」と聞くと、参加者のほぼ全員が手を挙げます。ここで「忙しいビジネスパーソンは健康意識が高い」と結論づけ、トレーニングのアプリをつくる。これが誤りの始まりです。
聞き方を変えます。「最後に運動したのはいつですか」「最後に健康を意識した食事を作ったのはいつですか」。すると、先週末も走ったという人から、大事だと思ってはいるが何もできていないという人まで、答えにグラデーションが出ます。
このグラデーションが見えて初めて、誰が顧客なのかがわかる。
大事だと思いながら動画を見て過ごしている人を、事業で動かすのは極めて難しい。すでにジムに月会費を払っている人のほうが、本当にその課題に向き合い、お金で解決しようとしています。課題をなんとかしようとする行動をとったことがあるか。それが、目の前の人が顧客かどうかを見分けるリトマス紙になります。
深掘りは「いくら」と「どれくらいの頻度で」まで
行動が確認できても、それだけでは解決策を設計できません。いつ、どこで、誰と、なぜ困るのか。深掘りの型として、5W1Hに二つを足した「5W3H」が示されました。
How much(いくらかけているか)。 顧客は今、その課題に対して何らかの代替手段をとっています。そこにかけている費用と、人手。経理の月末処理に4人が5日間張りついている、工場の運搬にフォークリフトと人員を充てている。これらはすべてコストであり、自社がつくるものの価格の相場を教えてくれます。
How often(どれくらいの頻度か)。 課題があっても、起きるのが10年に一度なら、人は人力で凌いでしまいます。ただし頻度が低くても単価が大きければ成立する。就職、住宅、車、結婚式。講師が古巣で扱っていた事業はどれも人生で数回しか起きませんが、一回あたりの取引額が大きい。頻度と単価の掛け算で見る、という整理でした。
AIは問いをつくれる。関係はつくれない
原理原則を理解したうえで、参加者は事前に配布された4本のプロンプトを順に使い、自分の想定顧客と課題に対する質問を生成していきました。最初の質問群、深掘りの質問、AI自身による見直し、そして質問票への整形。
出てきた質問を眺めた参加者からは、「いきなり本題に入るのではなく、その場面を思い出してもらう導入をAIが提案してきた」「高齢者の見守りを考えていたら、夏の熱中症と冬のヒートショックという、想定していなかった切り口が出てきた」という声が上がりました。
ただし、講師は二つのことを念押ししました。一つは、出てきた質問をすべて聞く必要はないこと。AIは手札を増やすためのもので、相手の忙しさに応じて選ぶのは人です。
もう一つは、AIが出せない部分があること。正しい問いを投げても、相手が安心していなければ本音は出てきません。介護や子どもの教育のように、初対面で大っぴらに話せない話題ほどそうです。だから質問の前に、自分が何者で、なぜ話を聞きたいのかを伝え、「あなたと同じ立場です」と示す時間を持つ。
ここで注意すべき点も一つ。導入で「こういう事業を考えています」と言ってはいけません。顧客は優しいので、その方向に合わせた答えを先読みして返してしまいます。「私もそれに困っていて、なんとかしたいと思っている」に留めておく、という助言でした。
聞く側の、三つの心得
ロールプレイに入る前に、聞き手として意識すべきことが三つ示されました。
わかったふりをしない。 ヒアリングを重ねると、顧客より顧客に詳しくなります。望ましい状態ですが、慣れすぎると「今回もあのパターンだ」と自分で解釈を進め、新しい気づきを逃します。
共感する。 相手は普段人に話さないことを話しています。「私、役に立っていますか」と途中で聞かれることは珍しくありません。「すごく役に立っています」と口に出して伝え、話しやすい空気をつくる。
待つ。 相手が考え込んだとき、助け船を出さない。「それって、こういうことですか」と先回りすると、顧客は楽なほうを選んで「そうそう、そうなんです」と言ってしまいます。普段の会話より、沈黙を恐れないこと。
ロールプレイで、質問が口に馴染む
後半は、ペアで7分ずつ、聞き手と顧客役を交代しながらのロールプレイでした。
やってみると、質問リストは手元にあるのに、相手の一つの答えに多くの情報が含まれていて次に何を聞けばよいか固まってしまう場面が出てきます。講師からは、話の流れに沿って聞き進めてよいこと、そしてあえて一度話題を離してから戻ると、相手が調子よく話しすぎているときのズレを確かめられる、という実践的なコツが共有されました。
質疑では、記録の取り方も論点になりました。二人一組で行き、一人が聞き、一人が横で見る。記録では顧客が言った事実と、こちらの解釈を必ず書き分ける。混ぜてしまうと、後から見返したときにどちらかわからなくなるためです。
謝礼については、このフェーズでは不要という答えでした。相手の課題を解決しに行く立場なので、協力は得られる。ただし、事業が進んだときも、閉じたときも、必ず結果を報告する。それが次の協力につながり、社内の後輩が同じ相手に会いに行ける関係を残します。
次は、聞いたことを形にする番です
顧客の言葉を信じるのではなく、行動を確かめる。今回のセミナーは、SPARKが大切にしている「顧客のもとへ足を運ぶ」ことの、具体的な作法を学ぶ回でした。
続く基礎セミナー④では、聞いて確かめた課題に対して解決策をつくり、それを試す方法を扱います。ヒアリングが「過去の行動」を確かめるものなら、プロトタイピングは「未来の行動」を確かめるものです。開催レポートもあわせてお読みください。
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