SPARK 豊田市新規事業創出プログラム
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「顧客不在のまま、進めない。」SPARK 基礎セミナー②開催レポート

2026年8月6日、豊田市の新規事業創出プログラム「SPARK」で、基礎セミナー「顧客と課題を見つける」を開催。事業計画から顧客が消える理由と、顧客・課題の絞り込み方をレポートします。

主催:豊田市 産業部 次世代産業課運営:株式会社アルファドライブ

2026年8月6日、ものづくり創造拠点SENTANで、豊田市の新規事業創出プログラム「SPARK」基礎セミナー②を開催しました。

テーマは、「顧客と課題を見つける」。講師に株式会社アルファドライブ グループ執行役員/地域共創戦略推進の宇都宮竜司を迎え、新規事業の出発点となる顧客と課題の見つけ方を、講義とワークを行き来しながら学びました。

SPARK 2026 基礎セミナー2「顧客と課題を見つける」2026年8月6日(木)14:00-17:00、会場SENTAN、参加無料。講師は株式会社アルファドライブ グループ執行役員の宇都宮竜司。

開催概要

開催日
2026年8月6日(木)
会場
ものづくり創造拠点SENTAN
テーマ
顧客と課題を見つける
講師
宇都宮 竜司(株式会社アルファドライブ グループ執行役員/地域共創戦略推進)

よくできた事業計画から、顧客が消えている

講義は、一つの事業計画を読むところから始まりました。

ある食品メーカーが、既存商品の伸び悩みと市場の縮小を背景に、自社の研究成果を生かした新しいビジネスモデルへ移行する——。自社が置かれた環境の分析があり、市場の見通しがあり、活用する自社資産があり、将来の拡大構想まで書かれています。一見すると、よく考えられた計画です。

しかし、この計画には一度も登場しないものがあります。誰の、どんな課題を解決するのか。顧客と課題が、どこにも書かれていません。

顧客不在。これが、優秀な人ほどはまる落とし穴です。

課題を抱えた顧客がいないまま検討を進めると、お金と時間をかけたあとで「売り始めたら誰も買わなかった」という結果になりかねません。講義では、この状態を「顧客不在」と呼び、今回いちばん覚えて帰ってほしい言葉として繰り返し示されました。

顧客不在を疑いたくなる兆候も紹介されました。「〇〇のためのプラットフォームをつくります」という構想。調査データの割合だけを根拠に、顧客と課題があると置いてしまう計画。「生成AIを活用して〇〇を解決します」という書き出し。いずれも、それ自体が悪いわけではありません。ただ、思いの中心が技術や仕組みに移り、助けたい相手が抜け落ちているときに、この形になりやすいという指摘でした。

顧客と課題が定まっていれば、やり直しは一段で済む

顧客不在を避けたい理由は、精神論ではなく手戻りの大きさにあります。

顧客と課題を確かめてから解決策を考えていれば、顧客に見せた解決策がずれていても、戻るのは一段だけです。「この課題は合っている。では、こう変えてみたらどうですか」と、もう一度見せに行けます。

一方、顧客と課題を確かめないまま解決策と収益モデルを積み上げると、仮説が外れたときに戻る足場がありません。すべてを白紙に戻してやり直すことになり、限りある時間と予算の中では、そこで撤退せざるを得なくなります。

AIは、顧客と課題を教えてくれるか

参加者の関心が集まったのが、この問いへの答えです。結論は「イエスでもあり、ノーでもある」でした。

AIが得意なのは、すでに公開されている情報や整理されたデータを組み合わせることです。業界の構造を理解する、業務プロセスを把握する、顧客と課題の仮説を広く出す。この領域では、人が手を動かすより速く、筋よく進みます。SPARKでは顧客のもとへ何度も足を運ぶことを重視していますが、その初期にあたる「業界を知るためのヒアリング」は、AIによって大きく短縮できます。

一方で、AIの中にないものがあります。現場の一次情報と、顧客自身がまだ言葉にできていない思いです。まだ誰も着目していない課題は、公開情報の組み合わせからは出てきません。

だから、順序が逆になります。AIに探してもらうのではなく、人が現場で一次情報を取ってきてAIに渡し、そこから仮説を組み立てる。AI時代だからこそ、AIが持ち得ない顧客の声を集める力が効いてくる、という整理でした。

顧客は「会いに行ける人」まで絞る

後半は、顧客設定と課題設定のそれぞれについて、避けたい例とその裏返しを一つずつ確認していきました。

顧客設定で確認したのは3点です。

1. 業界のままにせず、セグメントに切る。 たとえば「化粧品メーカー」は、顧客ではなく業界の名前です。国内資本か外資か、スキンケアかヘアケアかフレグランスか、商品開発かマーケティングかバックオフィスか、決裁者か現場担当者か。ここまで分けると、それぞれが抱える課題は別物になります。「化粧品メーカーは環境配慮に困っている」という設定は、言っているようで何も言っていない状態です。

2. 実在する顧客か。 頭の中でつくった人物像や、古い情報にもとづく顧客設定は危険です。「飲食店は紙の伝票でアナログ」という前提も、注文も決済もシフト管理も電子化が進んだいまは、そのまま当てはまりません。自分が詳しくないテーマを、話題になっているという理由だけで顧客に選ぶことも避けたいところです。

3. 誰の、どのシーンか。 コンビニの店長も、経理の担当者も、確かに実在し、会いに行けます。ただし、仕入れ、検品、陳列、返品、採用では、それぞれ課題が違います。役割や属性の単位で止めず、業務のどの場面を対象にするかまで見ることで、課題の解像度が上がります。

どこまで絞るかの目安は明快でした。ヒアリングのアポイントが取れるところまで。会いに行く相手のリストがつくれる粒度になっていれば、検証を始められます。

課題は「痛みを伴うか」で見分ける

課題設定でも、確認するのは3点です。

1. 真剣に困っているか。 「生産性を高めたい」「決算期が忙しい」。困ってはいるものの、なんとか回っている。こうした「あったらいいな」を課題と捉えてしまうと、大きな失敗につながります。狙うべきは、解決策があるなら今すぐにでも使いたい、と言われるほどの痛みを伴う課題です。

見分け方はシンプルで、すでに時間・労力・お金を使っているかを聞くこと。「発注管理をデジタル化したいそうです」と言われたとき、調べてすらいないのか、それとも部門横断のプロジェクトが立ち上がって予算がつき、外部への発注まで進んでいるのか。後者であれば、その課題は本物です。

2. 気づきを呼ぶ話があるか。 「まあ、そうだよね」で終わる課題は、事業になりにくいものです。逆に「そうなっていたのか、知らなかった」と言われる課題を見つけられると、成功の確率が上がります。

例として挙げられたのは、大企業の社内起業から生まれた、ペットの体調をオンラインで相談できるサービスです。起案者は、自分のペットが誤った診断を受けた経験から、なぜそれが起きたのかを掘り下げました。行き着いたのは、獣医は人の医療のように専門領域を絞ることが難しく、当時は一つのクリニックですべての領域に対応する前提だった、という業界の構造でした。一人の力量の問題ではなく構造の問題だと分かったからこそ、詳しい人が集まって答える形の事業が成立しました。現場を見に行った人だけが、言われてみれば確かにそうだ、という課題にたどり着けます。

3. 自社がやるべきか、やれるか。 自社の強みが何一つ生きない課題や、専門性が高すぎて手が届かない領域を選ぶと、そのあとが苦しくなります。やりたいかと同じくらい、現実にやれるかを初期仮説の段階で確認しておきたいところです。

社会課題は、そのままでは事業にならない

課題の話で、特に強く念押しされたのがこの点でした。

社会課題は、確かに課題です。しかし社会全体を対象にしている限り、お金を払ってでも解決したいと言う顧客が特定されません。つまり、社会課題そのものが顧客不在の状態にあります。

社会課題から発想すること自体は構いません。ただし、そこから解像度を上げ、その社会課題の中で誰が痛みを負っているのかを特定し、その人の課題に変換する。そこまで進めて初めて、事業として社会課題の解決に近づけます。

一人に絞っても、同じ人は必ず他にもいる

ここまで聞くと、絞りすぎて事業が小さくならないかという不安が出てきます。講義の答えは「絞ったほうが、結果として多くの人に届く」でした。

紹介されたのは、講師自身が脚色ありと断ったうえで語った逸話です。ある衣料ブランドの商品開発担当者が、ファッション好きゆえに冬でも薄着で体調を崩す同僚を見て、その一人のために服をつくった。それが結果として、多くの人が着る定番商品になった——。

同じことが、音楽の現場でも言われるそうです。数万人を前にする演者が、会場全体を盛り上げようとするのではなく、目に留まった一人を最高に楽しませようと演奏する。すると結果的に、会場全体が沸く。

誰にでも喜ばれるものより、誰か一人にとってものすごく嬉しいもののほうが、結局は多くの人に届く。

たった一人に絞っても、よほど極端な条件でない限り、同じニーズを持つ人は他に大勢います。自信を持って絞ってよい、というメッセージでした。

手を動かし、隣の人と話す

今回は、講義とワークを交互に進める形で行いました。

まず現時点の顧客と課題を書き出し、隣の参加者と共有する。次に顧客をセグメントとシーンまで絞り込み、また共有する。最後に課題を痛みの観点から見直し、もう一度共有する。書いては話し、聞いては示唆を返す、という往復を3回重ねました。

自社の事業案を言葉にして人に説明すると、書いているときには気づかなかった穴が見えてきます。最初に書いた顧客像が、ワークを終える頃には別のところに着地していた——という声も聞かれました。初期の仮説は検証の中で必ず変わる、ということを、その場で体験する時間になりました。

質疑応答では、検証の進め方が論点に

質疑応答では、実際に顧客のもとへ行こうとすると出てくる問いが交わされました。

  • 顧客を絞ってからヒアリングに行くのか、ヒアリングをしながら絞るのか
  • 取引先へのヒアリングを、社内にどう説明すればよいか
  • まだ顕在化していない将来の課題は、どうやって捉えるのか

顧客の絞り込みについては、知識がない状態では絞りようがないため、最初は業界の単位で話を聞きに行ってよい、という答えでした。聞くうちに解像度が上がり、自然と絞られていきます。近年はAIで業界構造や業務プロセスを事前に整理できるため、最初のヒアリングの質を上げやすくなっています。

取引先へのヒアリングについては、長い目で見れば相手の課題を解決しうる取り組みであり、双方にとって意味のある時間になる、という考え方が示されました。アポイントを取る際にもその意図を伝えることで、一方的に時間をもらう依頼ではなくなります。

次は、アイデアを形にする番です

8月以降は、顧客ヒアリングやAIを使った仮説検証を扱う基礎セミナーに加えて、オープンイノベーションや自社の技術を起点に事業アイデアを考えるワークショップが続きます。

今回のセミナーで確かめたのは、事業の出発点をどこに置くかという一点でした。自社の技術や設備から考え始めること自体は、間違いではありません。ただ、それを誰の、どんな痛みにつなげるのか。そこが定まったとき、技術は事業になります。

自社の現場で気になっていることを、事業の種へ変えるところから。まずは気になる回への参加、または事前相談から始めてみませんか。

自社の顧客と課題を、一緒に見つけませんか。

SPARKのセミナー・ワークショップは、気になる回だけでも参加できます。テーマがまだ固まっていない方は、事前相談からご利用ください。